ウィリアム・モリス・ギャラリー

Yumiko with Ruby and Jasper - Copyウィリアム・モリス・ギャラリーが改装工事を終えたは2012年のこと。私はアーティストとしてのモリスももちろんですが、彼の思想や生き方に昔からとても興味を持っていましたのでモリス縁の場所はかなり訪れました。「美しいもの、実用性のあるもの以外は家に何も置くべきではない・・・芸術は教育と同じく一部の人のみのものであってはならない・・・自分が本当に何をしたいかを見つけた時にこそその人の中に文化が芽生える」などさまざまなモリスの言葉に昔出会ってかなり衝撃を受けたことを覚えています。 

ウィリアム・モリスに馴染みがない方のために簡単に彼のことを説明しましょう。ウィリアム・モリスといえば日本ではカーテン地や壁紙などのデザインが人気のようですが、それは彼が関わった芸術のごく一部でした。装飾美術に関してのレクチャーで、モリスはこう言っています。「‘美’は人間が基本的に必要な要素で、それは可能である最高の芸術によってのみ満たされるものである」と。その最高の美を永遠に求めたモリスであったからこそ、装飾デザインだけでは物足りず、画家、家具デザイン、詩作、製本、刺繍、タペストリーといったさまざまな芸術に挑戦したのでしょう。 

術だけではありませんでした。当時は詩人としても名が通っていましたし、政治への関心は社会主義運動へと彼を誘いました。更にV&A博物館では購入する美術品のコンサルタントもしていました。そして現在も幅広く活動を続ける‘古代建築物保存協会’も立ち上げています。またヴィクトリア時代の工業社会の中で中世の職人の手作りの技術をサポートするために始まったアーツ&クラフツ運動を奨励し、ラファエル前派の友人たちの良き理解者でもありました。そして英国でも初期のエコロジストのひとりでもあり・・。一体ひとりの人間が一生のうちにこれほど広い分野に、しかも全身を傾けて関わっていくことが可能なのでしょうか ?1896年にモリスがその62歳の生涯を閉じた時の死亡診断書には「単にモリスであったことが原因」と記されています。

さて、今回ご紹介するウィリアム・モリス・ギャラリーの建物は1740年代に建てられたジョージアン建築のもので、その歴史的重要性から保存建築物に指定されているものです。株取引人であり、鉱山開発事業に投資して富を得た父が早くに亡くなり9人の子を抱えたモリスの母が節約のために家族を連れてこのウォーターハウスに越してきたのが1848年のことでした。彼はここで8年間を過ごしています。その後建物は1950年にウィリアム・モリス・ギャラリーとして一般公開されます。

ところが膨大な数に及ぶモリスの作品を最大限ディスプレイするために建築的重要性や、モリスが実際に住んでいた時の雰囲気を感じ取ることは難しい状態でした。それが今回の改築で見事に解消され、更にガーデンに面した温室風のティールームや図書館、賃貸可能なレクチャールームなどが加わりました。また新たに3部屋がディスプレイ用に加わり全12の部屋にモリスの作品や縁の品600点が展示されるようになったのです。売店にはモリスファンにとってはたまらない品(モリスのデザインが使用されたバッグや傘、文房具など)が揃っていて、お手洗いまでモリスの壁紙です! 

ロンドンやその周辺にはこの他にもレッドハウスやケルムズコット・ハウス、V&Aなどモリス関係の場所があります。次の英国への旅のテーマを「ウィリアム・モリス」に置いて芸術、歴史の両方の面からロンドンを観ては? 

in_ph_13_03in_ph_13_02今でも人気のモリスのデザイン「アフリカのマリーゴールド」と日本の影響を受けた「菊」。壁紙は全て木版画で作られた。

in_ph_13_04サセックス椅子は比較的値段の低い椅子として1860年代に製造を始め、人気が出た。

in_ph_13_05完全にモリス独自のデザインで折られたただひとつのタペストリー「きつつき」

in_ph_13_061893年にモリスはロンドンにケルムスコット・プレスを設立して良質の本の制作を始める。New from Nowhere には彼のユートピアの思想が綴られた。それは「資本主義、重工業、政府さえもなくなり、市や町に変わって緑にあふれた健康的な田舎がある将来」であった。

in_ph_13_08玄関を入ったところの正面に置かれたモリスの銅像。

in_ph_13_09結婚した妻のジェイン。後、モリスの友人で画家であったガブリエル・ロゼッティの恋人となりモリスを悩ませる。このスケッチはモリスが壁画のスケッチとして描いたものであろう。ジェインがトロイのヘレンに扮して船に乗りかかるところ。

in_ph_13_10最初のアーツ&クラフツ・エグゼビションでタペストリーのデモンストレーションを行うモリス。生涯を通しての友人エドワード・バーン・ジョーンズによるスケッチ。今にも裂けそうなチョッキとチジレ髪で作業に没頭するモリスがよく描かれている。

The William Morris Gallery 
Lloyd park, Forest Road, Walthamstow, London, E17 4PP
Tel: 020-8496-4390
http://www.wmgallery.org.uk/ 

*水〜日曜10:00〜17:00

*地下鉄ヴィクトリア線のWalthamstow Central、またはBlackhorse Roadから徒歩15


文:タイヴァース由美子

1977年、政府公認の観光ガイド資格であるブルーバッジを取得。以来、30年以上にわたってガイドとして活躍。2003年、NHK ETVスペシャル『イギリス素晴らしき村。豊かな人生と出会う旅』に番組の案内役として出演。2005年、政府公認のドライバーガイドの資格を日本人として初めて取得。

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