ロンドンから列車で行く旅:バース

Yumiko with Ruby and Jasper - Copyブルーバッジガイドとしての私のご案内先は少し前でしたらロンドン終日観光、または近場ですとウィンザー城やハンプトンコート宮殿が多かったものです。でももっと足を伸ばせばもっと違う英国が見えます。最近はドライバーガイドとして私の車でコッツウォルズやチルタンにご案内する機会も増えました。個人で小さな村々を訪れるには車を利用するのが時間的なロスが少ないですし便利です。でも一か所の町で過ごしたいのであれば列車の旅が最適です。

英国は鉄道の故郷です。車の普及の影響で1960年から70年にかけて多くの鉄道路線が廃線になったとはいえ、列車の旅は快適ですし、窓から見る景色も英国らしさを味わう旅のスタイルのひとつです。でも「切符の買い方もわからないし、現地での観光も不安」という方が多いので、今回は初めて列車の旅を楽しもうとする方のために、実際に私がお客様をご案内した時の様子を入れながらご紹介しましょう。行き先は初心者には最適と思われるバースの町です。ユネスコの世界遺産に登録されているこの美しい町は到着駅が中心にありますし、主要な観光場所は徒歩で行けますので便利です。

今回は東京からいらっしゃった母娘さん。彼女たちは日本からすでにBritRailという列車のパスを購入され、私はネットで早割チケットを購入しました。英国の列車は行き先や時間帯、また予約する時期で値段が異なります。(http://www.nationalrail.co.uk/) 今回お客様が購入されたBritRailの料金は私が購入した早割と同じくらいの料金で、しかも一日に何回でも乗車できるなど特典が多いので旅行者には便利です。日本では英国政府観光庁や‘地球の歩き方トラベル’などのオンラインで購入可能ですが、日本を発たれる前に購入することが条件です。

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その日、まずはロンドンのパディントン駅でお客様と待ち合わせをしてバースへの観光の始まりです。時刻表のような電光掲示板のプラットフォームの表示は発車直前にならないと出ない場合が多いのであせらずに。座席は一応指定席を予約しましたが、(乗車券購入時にすれば無料、BritRailでも一人片道5ポンドの追加料金で予約が可能)もし他の座席が空いていてもっと好みの席があった場合は座ることができます。ただ、途中でその席を予約した人が乗ってくることも考えられますので座席の背もたれに座席指定のチケットが差し込まれているかどうかを確認してください。ただ指定席を予約しなくてもラッシュ時をはずせば座れることが多いようです。

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予定通り列車は9:30に出発。一等車では飲み物やスナックのサービスがあります。 11:00にBath Spa駅に到着。駅を出て正面から出ている道(Manvers Street)を真っ直ぐ進み、そこから左にあるYork Streetを入り少し行くとサリーランズ・ハウスがあります。壁には1482年と書かれたプラックがついていますが、Bath市内では教会以外の建物としては一番古いと言われています。サリー・ランはフランスでの宗教上の弾圧から逃れてイギリスにやってきた女性ですが彼女の作るブリオッシュ系のパンが当時の英国には珍しく、たちまち名物になりました。現在でもサリーラン・バンというパンがここで食べられます。先ほどのプラックでは彼女がここに住んだのは1680年となっています。地下には中世のオヴンが残っていますので是非のぞいてみてください。

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さて、私たちは列車の中で飲み物をいただきましたので、サリーランズ・ハウスは外観を見ただけで先に進みました。最初の見学場所はローマン浴場です。西暦70年頃にローマ人が浴場と神殿を建設しましたが、現在でも46.5度のお湯が沸き出ています。それは1万年前にバースの南西に聳えるメンディップ丘陵に降った雨が地下の熱で温められて20キロ離れたバースに湧き出ているものです。

 今でもローマ時代の鉛の水道管を熱湯が通っていますし、床暖房などを見ればいかにローマ人の技術が卓越していたかがわかります。重ねられたレンガのタイルの間や垂直に置かれた空洞の柱を熱風が通り、その上に敷かれた床や壁を暖かくしていたのです。ここは私たちガイドはガイディングをしてはいけない場所。ウィンザー城など狭い通路がふさがれる可能性がある場所はガイディングが禁じられているところがありますが、そのような場所にはほとんどオーディオガイドが備わっています。ローマン浴場には日本語のオーディオもあります。 

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in_ph_21_08さてローマン浴場を見学した後は隣のパンプルームでお茶を、といきたいところですが、ちょうどランチタイムにかかっていたために食事客以外は利用できません。私たちは3時にロイヤル・クレッセントホテルでアフタヌーンティーの予約が入っていましたのでここでは休憩せずに先を進むことにしましたが、雰囲気もよく食事もおいしいので私の気に入っているレストランのひとつです。

更に商店街を通り、クィーン・スクエアに到着する直前で突然の雨。「今日は雨の予報はなかったのに。」とBBCの天気予報を恨んでみても仕方ありません。こういう時はゆっくりお茶を飲んで雨が上がるのを待つのが一番です。イギリスの雨はすぐにあがることが多いのですが、今回もクイーン・スクエアにある古いフランシス・ホテルで休憩しているうちにどんどん雲が消えて青空が顔を出し始めました。クイーン・スクエアはジョージアンタウンである美しいバースの土台を築いたジョン・ウッド(父)が最初にデザインした建物で四方を囲まれています。実際に彼は今はこのホテルの玄関口になっている家に住みました。ホテルの中にはバースの町に関する多くの古い写真が飾られています。

in_ph_21_09さて、おいしい紅茶をいただいた後は観光続行です。次に訪れるのは徒歩で5分のジェイン・オースティン・センターです。入口にはオースティン時代の服装をした人が立っていますのですぐにわかります。‘高慢と偏見’‘分別と多感’‘エマ’などを書いた彼女はバースに滞在したこともあります。シドニー・プレイス通りにあるその家は今はセルフ・ケータリングの宿泊所になっていますのでオースティンファンで数日バースに滞在されるのでしたらここに泊まってオースティンの世界に浸ってください。

彼女は男女が将来の伴侶を見つけるために集まってダンスや社交に耽っていた当時のバースを少し軽蔑していたようですが、この町と彼女のつながりは否定できません。時間があったらジェイン・オースティン・センターのティーショップでランチやアフタヌーンティーをいただくのもいいでしょう。壁にかかるミスター・ダーシーの肖像画がじっとあなたを見つめています!

センターから更に5分歩きますと円形の住宅街、ザ・サーカスがあります。それはクイーン・スクエアを設計したジョン・ウッド(父)がデザインし、1754年に建設が始まりましたが、その直後に他界したため息子が(やはりジョン.ウッドという名前)完成させました。360度の建物を3か所で区切り、その隙間になっている通りのどこから円内に入っても突き当りに建物が見えるようにデザインされています。3種類のギリシャのコロム、またその上に一連に並ぶ芸術と科学のシンボルを表した528のレリーフは建物をより美しく見せています。ここには18世紀に貴族の肖像画を多く手掛けた画家のゲインズボローや、キリスト教の伝道家であり探検家であったデイヴィッド・リヴィングストンが住みました。円形の建物の真ん中にある大きなプラタナスの木の前で母娘さん、記念写真を。
in_ph_21_12さてここから更に歩いて5分、いよいよロイヤル・クレッセントです。クレッセントとは三日月という意味で、いくつもの家がつながってカーヴを成しているもの。ロンドンにもパーク・クレッセントなどがありますがバースのものは英国で一番美しいものです。手前にある芝生から全体を見ましょう。30件の家が連なっています。向かって右側のNo. 1 Royal Crescentは現在バース保存協会が管理していて一般に公開されています。中は18世紀に住宅として使われていたころの内装が再現されていますので、ジョージアン時代の英国の生活史に興味のある方には必見の場所です。またさまざまなイベントも行われていますので、バースに滞在する方は事前にどんなイベントがあるか調べてから訪れるのもいいと思います。

ロイヤル・クレッセントの真ん中にあるのがロイヤル・クレッセントホテルです。写真では工事中になっていて赤い幕がかかったところですが、ロンドンの大きなホテルのように看板があるでもなし。注意していないと通り過ぎてしまいます。15時から始まったアフタヌーンティも落ち着いた雰囲気の中であっという間に素敵な時間が過ぎていきます。すでにホテルで予約してもらっていたタクシーも16:15にはホテルの前で待機していました。駅まで15分。バースの町は交通渋滞がある場合が多いので少し余裕を持って向かったほうがいいでしょう。列車は定刻通り16:43にバース・スパの駅を出発し、パディントン駅には18:15に到着しました。

いかがでしたでしょうか?この日訪れた場所以外にも昔ダンス会場であり社交場として最も大切であったアセンブリールームやそこに常設されている衣装博物館、また郵便博物館や素晴らしい絵画や銀器などが見られるホルバーン博物館など見どころは尽きません。もうひとつアドバイスをさせていただくとしたらバースは7月や8月は避けたほうが賢明かもしれません。あまりに観光客が多く、ジョージアンタウンの落ちついた雰囲気を味わうためにも人が少ない時期を選ぶか、またはここに滞在して観光客がいなくなって静かになった町を歩くか。そうすればまるでジョージアン時代を歩いている気分になるでしょう。 


文:タイヴァース由美子
1977年、政府公認の観光ガイド資格であるブルーバッジを取得。以来、30年以上にわたってガイドとして活躍。2003年、NHK ETVスペシャル『イギリス素晴らしき村。豊かな人生と出会う旅』に番組の案内役として出演。2005年、政府公認のドライバーガイドの資格を日本人として初めて取得。

 
 
 

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